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つながりから 新しい価値創出を 地域に 社会に

『日々の暮らしと向き合い、言葉を紡ぐ』・・鈴木俊輔さんのコレマデ/コレカラ 


 「とりあえず、普通に生きているだけで大変。生きているだけで、+αがあるならもう十分だと思うんです」
穏やかな語り口のなかに、鈴木俊輔さんの等身大の人生哲学がにじみました。

 6月の「コレマデ/コレカラ」は、池田町在住のローカルライター、鈴木俊輔さんをお迎えしました。
出版社での勤務、協力隊としての移住、現在のライターという働き方。その語りは、静かで控えめながらも、「書く」ことと「生きる」ことへの深い眼差しに満ちていました。


映画と読書、そして“自分探し”の20代

映画と旅に彩られた青春

 鈴木さんは横須賀の出身。街には映画館があり、映画好きとして育ちました。明治大学では演劇学を専攻。通学の電車内で本を読むようになり、映画と読書、そして旅が彼の学生時代を彩っていきます。青春18きっぷを片手に日本全国をめぐり、海外にも旅をし、名画座に通い詰めた大学時代、そのころから、自分自身の物語を探す旅はすでに始まっていたのかもしれません。

 映画好きが高じ、監督を目指し映画会社への就職も試みましたが、願いは叶わず。それでも「クリエイティブな仕事がしたい」という思いは強く、出版社への入社を決めましたが、配属はまさかの財務部。原稿料の処理などルーティン業務に追われる中、自分の存在が霞んでいくような感覚に苛まれたといいます。

哲学としての仏教、そして“暮らし”への転換点

 20代の鈴木さんは、常に「ここではないどこかにいる、別の自分」を探していたと語ります。そんな中、仏教僧・草薙龍瞬さんの『反応しない練習』との出会いが、大きな転機となりました。仏教を哲学としてとらえ、「どう生きるか」をロジカルに説いてくれる草薙さんの教えは、彼の迷いに一本の軸を与えてくれたといいます。

 さらに、非電化工房の藤村靖之さんが提唱する「月3万円ビジネス」の思想「支出を減らし、身の丈に合った生活を楽しむ」という価値観にも共鳴。東日本大震災をきっかけに、「地方での暮らし」が現実的な選択肢として浮かび上がっていきました。奥様がオーストリア出身で、日本の夏が苦手だったこともあり、涼しい土地を求めてたどり着いたのが、ここ池田町でした。


書くことと、暮らすことと、自分で選ぶ人生

協力隊からライターへ「偶然と出会いが導いた道」

 松本のゲストハウスで出会った方の紹介で池田町を知り、その時ちょうど募集していた地域おこし協力隊に応募。特産品開発というミッションのもと、ハーブやあずきをテーマにしたワークショップなどを手がけていきました。
 「最初は、池田町って意外と都会だなって思ったんですよ」と笑いながら語る鈴木さん。でも、地域の中に入っていくにつれ、ゆっくりと土地との関係性が築かれていきました。

 任期終了後は、ローリスク・ローリターンの道としてライターとして独立。地元紙での連載や、移住者インタビューの記事が好評だったことが背中を押しました。しかし、起業直後は仕事がまったく来ず、やがてコロナ禍へ。収入が激減し、薪割りや清掃など10以上のアルバイトで生計を立てる日々。そんなとき、妻から「今のあなたは、あなたらしくない」と言われ、心に大きく響いたと言います。

 その後、大町市のまちづくり会社で働き、現在は長野市のWeb制作会社にリモート勤務しながら、ライター活動も継続中。現在は、さまざまな経験を経て、「心地よい暮らし」と「やりがいのある仕事」がようやく両立しつつある、そんなフェーズにいるのだと語ってくれました。

書くことと生きることのあいだで

 「書くことは、好きです。でも、自分を表現したいというより、“人の話を聞くこと”が好きなんです」。ライター業のなかで、インタビューには特別な思いがあるとのこと。インタビューは一発勝負。緊張感の中で言葉を交わすことで、思いがけない言葉が生まれる瞬間がある。
 「つまらないインタビューは一つもなかった」ときっぱり言い切る鈴木さんのまなざしは、まさに書くことへの誠実さそのものでした。

 今後のテーマは、「自分にしか書けない領域」を見つけること。AIの台頭でライター業も変化していくと感じている一方で、「効率が上がれば、むしろ人が書く価値はさらに問われる」とも語ります。SEO対策だけの文章にはしたくない。人の声や暮らしに丁寧に寄り添いながら、これからも書き続けていきたい、そんな決意が、言葉の端々に滲んでいました。

 そして語られた「夢」のひとつ。
 こぢんまりとしたカフェで、人と語らい、その場の空気ごと一つの記事にするような仕事がしてみたい、と。暮らしと仕事が地続きになるような、そんな未来の風景が、彼の語りから浮かび上がってきました。


幸福とは、「死ぬときに納得できること」

 「鈴木さんにとって幸福ってなんでしょう?」という参加者からの問いに、鈴木さんは少し間をおいて、こう答えました。
「死ぬときに、後悔がないこと。物質と精神のバランスがとれていて、自分の人生に納得できること」。
 それは、特別な何かを成し遂げることではなく、「ただ、生きる」という営みのなかに小さな喜びと意味を見出していく姿勢なのかもしれません。

 「well-doing(何をするか)」と「well-being(どうあるか)」
 その両方のバランスを見つけながら、日々の暮らしと向き合い、言葉を紡ぎ続ける鈴木俊輔さん。
 その姿は、今この時代を生きる私たち一人ひとりへの、静かで力強いメッセージのように感じられました。

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