少子高齢化が進み、人口減少という現実に直面している日本の地方自治体。
これまでの延長線上の施策だけでは、未来を切り拓くことは難しくなっています。そんな今だからこそ必要なのが、「クリティカルシンキング(批判的思考)」
目の前の課題を“当たり前”として受け止めるのではなく、「そもそも、なぜ?」と問い直す姿勢が、地域に新しい風を吹き込むのです。
思考法やフレームワークって、なんのためにあるの?
政策立案や地域づくりの現場では、複雑な問題を整理して考える「思考法」や「フレームワーク」が重要な道具になります。
たとえばこんな手法があります:
- クリティカルシンキング:物事を鵜呑みにせず、多角的な視点から本質を見抜く思考法。
- ロジカルシンキング:論理の筋道を明確にし、構造的に問題を解決する。
- デザイン思考:共感を出発点に、創造的で柔軟なアイデアを生み出す。
- システム思考:個別の課題を“全体のつながり”として捉え、根本から改善する。
この中でも、地方の人口減少問題のように“複雑で絡み合った”課題に対しては、クリティカルシンキングやシステム思考が効果的です。本稿ではクリティカルシンキングについて、解説します。
「なぜ?」を問い続ける力-クリティカルシンキングとは
クリティカルシンキングとは、目の前の事象に対して「それは本当に正しいのか?」「ほかに見落としている要因はないか?」と疑問を持ち、客観的かつ論理的に深く考えるための思考法です。
たとえば、
「人口が減っているから人を呼ぼう」という発想の前に、「なぜこの地域から人が出ていくのか?」という根本原因を掘り下げる。
この問いこそが、表面的ではない、本質的な解決策につながります。
人口減少がもたらす“地域の現実”
多くの自治体では、人口減少によって以下のような課題が生じています:
- 経済の停滞:働き手が減り、地域経済が縮小。
- 公共サービスの弱体化:税収減により、医療や教育、交通インフラの維持が難しくなる。
- 地域コミュニティの衰退:担い手不足で祭りや自治会が続かなくなり、日常の支え合いが崩れていく。
これらはすべて、「人口減少そのもの」ではなく、「人口減少の先にある生活環境の変化」が地域を蝕んでいるのです。
なぜ今、クリティカルシンキングなのか?
従来の慣習や過去の成功体験に縛られた政策では、もはや立ち行かなくなっています。
クリティカルシンキングによって、こんな変化が起こります:
問題の“本質”を見抜ける
「とりあえず移住促進」ではなく、なぜ人が来ないのか、定着しないのかを多面的に分析。
情報の偏りや思い込みを外せる
「うちのまちは○○だから無理」「前例がないからできない」
こうした無意識の「思考のクセ(バイアス)」に気づくことで、新たな選択肢が生まれます。
私たちは誰しも、経験や立場、感情によってものごとを一方向から見てしまいがちです。
クリティカルシンキングは、その「思考の偏り」を自覚しながら、冷静かつ柔軟に考えるための土台になります。
創造的で柔軟な解決策が生まれる
型にはまらない発想から、新しい地域の可能性が見えてくる。
住民との対話の質が深まる
「なぜこの政策が必要なのか?」を一緒に問い直すことで、納得と共感が生まれます。
地方自治体の実践例──“問い直す”から始まった変革
▶ 富山市:コンパクトシティ戦略
「都市機能が衰えているのはなぜか?」を問い直し、
公共交通を中心にした都市設計へ転換。結果、中心部の活性化に成功。
▶ 徳島県神山町:ITベンチャー誘致
「なぜ若者がいなくなるのか?」から始まり、
ネット環境の整備と外部人材の受け入れで、持続可能な地域へと舵を切りました。
今日からできる「問い直す」ステップ
クリティカルシンキングを地域で実践するために、以下の流れがおすすめです:
- 現状を見つめる
感覚ではなく、客観的なデータに基づいて地域の姿を把握する - “なぜ”を繰り返す
その課題はなぜ起きているのか?その背景に何があるのか? - 自分のバイアスに気づく
「これまでこうだったから」「〇〇が悪い」という考えを、いったん手放してみる - 多様な視点を取り入れる
外部の視点、住民の声、若者の意見などを横断的に拾う - 解決策を柔軟に考える
従来の“正解”にこだわらず、新しいアプローチを試してみる - 実行→検証→改善
実施後も問い直しを続け、施策を柔軟にアップデートしていく
「こうあるべき」から自由になったとき、まちの未来が動き出す
クリティカルシンキングは、特別なスキルではありません。ほんの少し立ち止まって、「なぜ?」と問いかけてみることから始まります。
思い込みや前提を疑い、地域の価値を見直し、本当に必要なことを一歩ずつ見極めていく。そのためには、自分自身の中にある「思考のクセ」や「バイアス」に気づくことも大切です。
それは、地域をよりよくする第一歩であり、自分自身の視野を広げるきっかけにもなります。
人口減少という現実を前に、もっとも大きな変化を生むのは、わたしたちの“ものの見方”を変えることかもしれません。
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