これまで私たちは、社会課題に向き合ううえで大切な“見る力”について考えてきました。
「木を見て、森も見る」こと、その森の“周囲”まで見渡す視点。
そして、自分の見方そのものを俯瞰する“メタ認知”。
さらに、「問いの立て方」自体をデザインし直す、そんな思考の層にも触れてきました。
では、こうして立ち上がった“問い”を、私たちはどこで、どのように育てていけばいいのでしょうか?
今回のテーマは、「対話と場づくり」です。
対話は“伝えること”ではなく、“ひらいておくこと”
地域の課題に関わっていると、こんな場面によく出会います。
- ワークショップは開いたのに、議論が深まらなかった
- アンケートをとったけど、本音が見えてこなかった
- 会議では意見が出るけれど、どこか“かみ合わない”感覚が残る
この「かみ合わなさ」の原因は、単なる「説明不足」や「話し方の技法」だけではないのだと思います。
じつは、「問いの立て方」や「場の空気」によって、“語る前から語れない空気”が生まれてしまうことがあるのです。
対話は、関係性のデザインでもある
私たちが大切にしたいのは、「対話の技法」よりも、「問いをひらく関係性」。
- 正解を出すことではなく、違いを持ち寄ること
- 納得することではなく、違和感を置いておくこと
- 言葉で説明しきれない感情を、安心して出せること
そんな関係性が少しずつ育まれる場では、「ひとつの問い」が時間をかけて“共有財産”になっていきます。問いは誰かが準備しておくものではなく、みんなで耕していくもの。
そして、それを支えるのが「場」なのだと思います。
“よい場”とは、答えを急がせない空間
よい場とは、決して話し合いが活発な場所というわけではありません。
むしろ「問いが浮かび上がる余白」がある場所・・・
- 沈黙しても、気まずくない
- 答えが出なくても、もどかしくない
- 誰かの言葉が“ずっと残る”ような、余白がある
特に「まちづくり」に関わる話し合いの場では、限られた時間の中で“結論らしきもの”を出すことが求められがちです。けれども、そこで急いでまとめられた結論が、どこかしっくりこなかったり、参加者の本音に届いていなかったりすると、後々に“違和感”として残り、それが不信感や軋轢へとつながることも少なくありません。
結果として、最初に“まとめた”つもりの場よりも、ずっと長い時間をかけてやり直すことになる・・・
そんな経験、私たち自身にも、きっと思い当たる節があるのではないでしょうか。
だからこそ、問いを急がず、立場を越えて言葉を置いていけるような場づくりが大切になります。そのためには、「正しさ」や「役割」を一度そっと脇に置ける、場の“しなやかさ”が求められるのです。
“やっている感”ではなく、問いが耕される場へ
一方で、形だけのワークショップや意見交換会が「やっている感」の演出になってしまうケースも少なくありません。
とりあえず開いて、とりあえず話して、「意見をいただきました」と済ませてしまう・・・
そんな“空回りの対話”が繰り返されれば、参加者の心は離れ、声を出す意味すら失われていきます。
そこにあるのは、「本当は聞いてもらえないんじゃないか」という諦め。
対話の場を一度裏切ってしまえば、その信頼を取り戻すには、とても時間がかかります。
だから私たちは、急ぎすぎないことと同時に、開かれた対話の誠実さも大切にしたい。
問いが本物として育まれるには、時間だけでなく、互いの声に真剣に向き合おうとする姿勢が欠かせません。
場をつくるとは、「誰が・なぜ・どう集うか」を編み直すこと
私たちが実感している“場づくり”とは、単なるファシリテーションではありません。
それは、次の3つを同時にデザインする営みです。
1. 誰と集うか(関係性)── 多様性だけでなく、関係性の“深さと質”をどう築くか
2. なぜ集うか(問いの共有)── 目的で縛らず、問いでつながる場づくり
3. どう集うか(時間・空間・雰囲気)── 対話をひらく物理的・心理的“環境のしつらえ”
この3つが響き合うとき、場には「一緒に考える空気」が生まれはじめます。
その空気が、誰かの声を“ただの発言”ではなく、“探究の一部”へと変えていくのです。
問いのための場、場のための問い
「問いを持ち寄る」
「言葉にならない気持ちも置いておける」
「すぐに次へ進まなくても、そこにいられる」
そんな場があることで、人と人との関係性は変わり、問いの質も自然と深まっていく・・・
問いと場は、互いに育て合うものなのだと、私たちは感じています。
次回予告「まちを“関係”として捉える視点」へ
次回は、「関係性としてのまち」について考えていきます。
場所や制度としての“まち”ではなく、集合的な“いきもの”として、どう捉え直すか。
まちを「つくる」ではなく、「編む」「耕す」視点から、新たな探究をひらいていきます。
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