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つながりから 新しい価値創出を 地域に 社会に

「地域との新しいつながり・・住まないけど、私のまち」能動的な関係人口ラボ 第1回レポート

「住民票はない。でも、なぜか“自分のまち”のように感じてしまう」そんな人たちが、いま日本各地で増えつつあります。

移住でも定住でもなく、「関わる」という選択。
週末にイベントを手伝ったり、数か月に一度のペースで通い続けたり、あるいはただ“気になる人”や“好きな場所”があって、ふと足を運ぶ。そうした関わり方は、これまで十分に言葉にも制度にもされてきませんでした。
この『能動的な関係人口ラボ』は、そんな“住まないけれど関わっている人たち”の存在に光をあてるトークイベントです。実践者の語りを起点に、地域と関わることの意味や、距離感のあり方、多様なつながり方を、探っていきます。
関係人口は数ではなく、関係の「質」。この小さなラボが、その質について考えたり、編み直す場になることを願って、このイベントを企画しました。


「能動的な関係人口」とは

「関係人口」と聞くと、移住や定住へのステップと捉えられがちですが、この「能動的な関係人口ラボ」が問いかけるのは、その先にある多様な関わり方です。私たちは、関係人口を単なる移住定住の手段としてではなく、地域と人が「住む/住まない」を超えて結びつく、新たな関係性の形だと考えています。
移住定住はゴールではなく、あくまで数ある関わり方の一つにすぎないのです。

「地元なのに、地元じゃない」からはじまった物語

2025年5月21日、カフェからびなにて記念すべき第1回が開催されました。
ゲストは、金融機関に勤務しながら池田町と関わってきた米山哲彦さん。

米山さんは飯田市出身といいながらも、その土地に特段の記憶はないそうです。お父さんの転勤に伴い、各地を転々としたのち、高崎市の大学に進学。大学卒業後は松本信用金庫に就職し、ご両親が住む松本市に戻られたそうです。ところが地元に戻ったはずが、「本籍が飯田」というと“地元じゃない”と言われる。
さらに、松本市内に住み始めたころは、地域の活動にもなかなか誘われなかったと言います。

そんな中、築北支店に転勤になったときに「とても親身になってくれた」と語る経験が、地域との関係を見つめなおすきっかけになりました。
そして、2011年。東日本大震災の発生が、米山さんの心に火を灯します。
「死んでしまったらなにもならない。だったら、やりたいことをやろう」

その後、信州大学の地域実践ゼミに参加し、長野市七二会地区の活性化に関わります。
そして、その経験から地域に関わることに関心を持ち、休日ごとに家族で長野県内の自治体を訪ね歩くようになったといいます。
「その地域を好きになるには、まず知ること」
米山さんの実践には、どこまでも丁寧な“まなざし”がありました。

「定住しないからこそ見える風景」がある

平成31年、池田支店に配属。
町史を図書館で借りて読み込み、バイクで走り回りながら、町の風土に触れていきます。
そうして得た知識や感覚は、日々の仕事の会話に活かされていく。
「お客さんをこえて、仲間になっていった」そう語る米山さんは、週末のどちらかには池田町にいるようになったといいます。
地元の人々からすれば、“住んでいないけど、いつもいる人”。そして米山さんからすれば、“住んでいないけど、信頼し合える関係があるまち”。
町史から学んだことは、池田町ガイドマスターでの活動に活かされ、いつの間にか米山さんは池田町にとって「なくてはならない」存在になっていきます。
ここに、関係人口という言葉では言い表せない、けれどたしかに存在する“感覚の関係性”が浮かび上がります。

ふるさと住民制度と重なる視点

最近、政府が発表した「ふるさと住民制度」構想。
観光客やふるさと納税者をアプリで登録し、10年で1,000万人を目指すという国家的構想です。
もちろん、それは新たな枠組みとして意義ある試みです。でも、制度に先行して、実践はすでに始まっている。
「登録される人」になる前に、地域と信頼を結び、継続的に関わり続けている人たちが、全国各地にいるのです。

米山さんの存在そのものが、その証左でした。関係は数ではなく、実践の積み重ね。
語りと対話を通して可視化される「見えないつながり」にこそ、制度を内側から支える真の力が宿るのかもしれません。

「横に立つ」という関わり方

米山さんが繰り返し語ったのは、「横に立つ」という姿勢でした。まちと関わるとき、「応援する」「サポートする」といった上下の構造ではなく、共に在ること、共に考えること。
その関わりが、「いつの間にか味方になってくれる関係性」を生み出していきます。

また、まちとの関係性を深めるために有効なのが「三つの掛け合わせ」。
○○×○○×○○。
たとえば、場所、人、興味。あるいは、趣味×仕事×地域。
複層的な接点が生まれると、関係も豊かに、柔らかく、ほどよく絡まっていくのです。

最後に残った、やさしい問い

「定住しているかどうか」ではなく、「その人がどれだけまちと関係しているか」。
池田町に最も長く勤めたという米山さんの語りは、“関係人口”という言葉がまだ知られていない時代から、すでに関係を生きていた人の実感そのものでした。

「面白そうなことを、面白そうな人たちが、自然体で続けていれば、そこに人は集まってくる」
そして、「価値観が違う人に出会ったとき、反発心より、好奇心をもってみる」
米山さんがアドバイスしてくれたこの言葉が、とても印象的でした。

まちと関わるというのは、結局のところ、人と出会い、違いを知り、自分の輪郭と少しずつ重ね合わせていくこと。
その重ね合わせ方の中に、定住や移住といった形式では測れない“本当の関係”が育っていくのだと思います。


次回の『能動的な関係人口ラボ』は、7月16日(水)19:00より開催予定です。
「住まないまちとの関係」を探る、新たな夜を、どうぞご一緒に。



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